夏月夜十景 第六景

今回は文庫にまとめられた怪談会の記録の一部と、怪談小説二編をドラマ化したものを女性講談師を案内人にしドラマアンソロジーとして上演するという趣向になっています。
会の記録の方は「予兆」と「震災」にまつわるものをリストアップし叙事的な組み立てをしています。
怪談小説の方は「平山蘆江」という明治末期から、昭和初期にかけて新聞記者として、晩年は大衆小説家として活躍した方の作品から選んでみました。

平山蘆江、あまり馴染みのないお名前かと思いますが、私もお名前を知ったのはつい最近のことで、それ以前は、和田誠氏監督の映画「怖がる人々」の中の一編「火焔つつじ」が印象に残っていたものの原作があるのか、監督のオリジナルなのかもはっきりしない、そんな記憶の仕方でした。

その後幾星霜、別件で朗読についての作品探しをしていたときに偶然「火焔つつじ」のタイトルを見つけ、作者の名前を知ることになりました。そして50秒後にはポチッとやって手に入れたのが「蘆江怪談集」。

同時代の風俗や社会情勢を巧みに取り入れた作品からいたってクールで現代的な花街もの、さらには江戸末期の時代物まで含めて1ダースほどが詰まった超お買い得商品でした。

中でも印象に残ったのが江戸末期の時代もので、昭和初期から見た江戸末期。それはちょうど令和から昭和中頃1960年代の景色に近い感覚なのかもしれないなと思うと不思議な気がし、親近感が湧く楽しい読書体験となりました。

今回はそんな作品の中から二つ、花街ものの「投げ丁半」、時代ものの「二十六夜待」を選びました。

「投げ丁半」では旅先で相部屋になった男女の機微を、「二十六夜待」では商家の若旦那と花魁の心中をすでになくなってしまった江戸時代の風習「二十六夜待」の一夜を描いた作品。

蘆江さんは神戸のお生まれというせいもあってか、ありがちな江戸情緒を振りかざさない実に写実的な文章で怪談を書かれます。乾いた怪談、というとおかしな言い方になりますが、現代にも通じる等身大の生きた人間の、哀しくて切ない物語を朗読劇として立ち上げ上演いたします。

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